退職金には、準備する段階、支給する段階、受け取る段階のそれぞれで税制上の優遇措置が用意されています。
この3つの段階を理解して設計すれば、会社にとっても受け取る本人にとっても税負担を軽減できます。
- 退職金の準備方法により将来の経費計上の可否が変化
- 支給時は、一定の範囲内で損金として計上が可能
- 受給する側は、退職所得控除や分離課税の仕組みにより、税負担が大幅に変わります
この記事では、会社が退職金を準備・支給する際の税務上の扱いと、受け取る側の税制メリットについて解説します。
また、個人事業主が退職金に相当する資金を準備する方法についても触れていきます。
目次
会社が退職金を準備する段階で考えるべきこと
| 項目 | 内部留保 | 保険商品 |
|---|---|---|
| 支出 | なし | 保険料の支払いが発生 |
| 経費計上 | なし | 保険商品の内容に応じて経費計上可能 |
| 将来の資金 | 留保した金額がそのまま財源 | 解約返戻金を財源に充当可能 |
退職金の支給に備えて財源を確保する方法はいくつかあります。
どの方法を選ぶかによって、準備期間中の経費計上や将来の資金繰りに違いが出てきます。
内部留保として確保する場合は経費計上できない
社内に内部留保として資金を確保しておく方法があります。
この場合、支出は発生しません。
ただし、利益として計上された資金を留保する形になるため、その利益に対しては法人税がかかっている状態になります。
内部留保は会社の資産として残りますが、準備段階での経費計上はできないため、この時点での節税効果はありません。
保険商品を活用すると経費計上と将来の返戻金を両立できる
保険商品を活用する場合は、保険料として支出が発生します。
この支出は、保険商品の内容に応じて、一部または全部を経費として計上できます。
将来、退職金を支給するタイミングで保険を解約すれば、返戻金を受け取ることができます。
この返戻金を退職金の支払いに充てることで、キャッシュアウトを抑えながら退職金を支給できるわけです。
経費計上できる金額がいくらになるか、将来の解約返戻金がいくらになるかは、保険商品の内容によって異なります。
退職金の準備として保険を検討する場合は、この2点を事前に確認しておくことが重要です。
退職金を支給する時、会社側は損金として計上できる
| 項目 | 内部留保を財源にする場合 | 保険の解約返戻金を財源にする場合 |
|---|---|---|
| 現預金 | 大きく減少 | 解約返戻金で補填されるため影響を抑えられる |
| 支出 | 退職金の支給額がそのまま支出 | 支給額から解約返戻金を差し引いた額が実質支出 |
| 損益の影響 | 退職金を損金計上できるが、金額によっては赤字になる可能性あり | 解約返戻金(収益)と退職金(損金)が相殺され、法人税負担を抑えられる |
退職金を支給すると、会社からは現預金が出ていきます。
この支出は、一定の範囲内であれば損金として計上でき、法人税の負担を軽減できます。
なお、損金として認められる金額には上限があります。
この上限は「損金算入限度額」と呼ばれ、以下の計算式で求めます。
損金算入限度額 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
最終報酬月額は、退職時点での月額報酬を指します。
勤続年数は、その会社で働いた年数です。
功績倍率は、役職や会社への貢献度に応じて設定される倍率で、一般的には役員の場合で2〜3倍程度が目安とされています。
この限度額を超えて退職金を支給した場合、超過分は損金として認められず、法人税の計算上は利益として残ることになります。
退職金を高く設定しすぎると、かえって税負担が増えてしまう可能性があるということですね。
内部留保を財源にする場合は大きな支出が発生する
内部留保を財源にして退職金を支給する場合、会社の現預金が大きく減少します。
退職金の支給額がそのまま会社からの支出となるためです。
一方で、支給した退職金は損金として計上できるため、その分だけ法人税の負担は軽減されます。
ただし、退職金の金額によっては、損金計上による節税効果よりも資金流出のインパクトの方が大きくなることもあります。
保険の解約返戻金を財源にすると資金繰りへの影響を抑えられる
保険商品を活用して退職金を準備した場合、支給のタイミングで保険を解約すると返戻金が入ってきます。
返戻金は会社の収益として計上され、退職金の支給は損金として計上できます。
収益と損金が同じタイミングで発生するため、利益が相殺され、法人税の負担を抑えることができます。
また、解約返戻金を退職金の支払いに充てることで、会社の資金繰りへの影響も軽減できます。
ただし、解約返戻金が退職金の損金計上額を上回る場合は、差額に対して法人税がかかる可能性があります。
退職金を受取る側は「退職所得控除」と「分離課税」で税負担が軽くなる
| 区分 | 税の種類 | 控除・非課税枠 |
|---|---|---|
| 生前 | 所得税(退職所得) | 退職所得控除が適用、控除後の金額が1/2になり、分離課税で計算 |
| 死後 | 相続税 | 500万円 × 法定相続人数が非課税、弔慰金は別枠で非課税 |
退職金を受取る側には、税負担を軽減するための仕組みが用意されています。
本人が生前に受け取る場合と、亡くなった後に遺族が受け取る場合とでは、適用される税制が異なります。
生前受取り:所得税の優遇措置が適用される
本人が生前に退職金を受け取る場合、以下の3段階の仕組みによって、通常の給与所得よりも大幅に税負担が軽くなります。
- 退職所得控除:勤続年数に応じた金額を差し引く
- 1/2課税:控除後の金額をさらに半分にする
- 分離課税:他の所得と合算せず、退職所得だけで税率を適用する
それぞれの仕組みを詳しく見ていきましょう。
1.退職所得控除の金額は勤続年数で決まる
退職金を受け取ると、まず退職所得控除が適用されます。
この控除額は、勤続年数に応じて計算されます。
- 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数
- 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
勤続年数が20年以下の場合は、「40万円 × 勤続年数」が控除額となります。
勤続15年なら、40万円 × 15年 = 600万円が控除されます。
勤続年数が20年を超える場合は、計算式が変わります。
「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)」となります。
勤続30年なら、800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円が控除されます。
勤続年数が長いほど控除額が大きくなるため、長く働いた人ほど税制上のメリットが大きくなる仕組みになっています。
2.控除後の金額がさらに1/2になってから課税される
退職所得控除を差し引いた後の金額が、そのまま課税対象になるわけではありません。
控除後の金額をさらに1/2にした金額が、課税対象となります。
退職金が2,000万円、退職所得控除が1,500万円の場合を考えてみましょう。
2,000万円 − 1,500万円 = 500万円となります。
この500万円をさらに1/2にして、250万円が課税対象になります。
2,000万円を受け取っても、課税対象は250万円で済むわけです。
この1/2課税の仕組みがあるため、退職金にかかる税金は、同じ金額の給与を受け取った場合と比べて大幅に少なくなります。
3.分離課税なので他の所得と合算されず税率が跳ね上がりにくい
退職金は、給与や事業所得とは別に「分離課税」として扱われます。
他の所得と合算されないため、累進課税による税率の上昇を避けることができます。
所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進課税の仕組みになっていますよね。
もし退職金が他の所得と合算されると、合計額に対して高い税率が適用されてしまいます。
分離課税であれば、退職金は退職金だけで税率が決まります。
1/2課税で課税対象が圧縮されていることもあり、適用される税率自体も低く抑えられることが多いです。
死後に相続人が受取り:相続税の非課税枠が適用される
退職金を受取る前に本人が亡くなった場合、相続人が退職金を受け取ることになります。
この場合は相続税の対象となりますが、一定の非課税枠が設けられています。
「500万円×法定相続人数」が非課税になる
相続によって受け取る退職金には、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。
たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人であれば、500万円 × 3人 = 1,500万円までは相続税がかかりません。
この非課税枠を超える部分については、他の相続財産と合わせて相続税の計算対象となります。
弔慰金は別枠で非課税扱いになる
会社から支給される弔慰金は、退職金とは別枠で非課税となります。
退職金の非課税枠とは別に扱われるため、弔慰金が支給される場合は、それぞれの非課税枠を活用できます。
個人事業主の退職金は小規模企業共済の活用で税制メリットあり
個人事業主は、会社員のように会社から退職金を受け取ることができません。
しかし、小規模企業共済を活用すれば、退職後の資金を準備しながら、退職金と同じ税制メリットを受けることができます。
掛金の支払いは所得控除、受取り時は退職所得控除が適用
小規模企業共済に支払う掛金は、全額が所得控除の対象になります。
毎年の所得税・住民税の負担を軽減しながら、将来の資金を積み立てることができます。
受け取るときは、共済金が退職所得として扱われます。
つまり、前述した退職所得控除、1/2課税、分離課税の仕組みがすべて適用されます。
掛金を支払うときは所得控除で税負担を軽減し、受取るときは退職所得控除で税負担を軽減できる。
支払い時と受取時の両方で税制上のメリットがあるため、個人事業主にとって有効な選択肢です。
退職金の税負担軽減は「出口」だけでなく「入口」の設計で決まる
会社が退職金を準備する段階では、内部留保か保険商品かによって経費計上の可否が変わります。
支給する段階では、損金算入限度額の範囲内で法人税の負担を軽減できます。
受け取る側は、退職所得控除・1/2課税・分離課税の3つの仕組みによって税負担が大幅に軽くなります。
個人事業主も、小規模企業共済を活用すれば、支払い時の所得控除と受取時の退職所得控除という二重のメリットを受けることができます。
退職金の税負担軽減は、受け取るときだけでなく、準備を始める段階からの設計で決まります。

